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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)1405号 判決

原告

赤沢幾男

被告

山本智子

主文

一  被告は、原告に対し、金四、六一四、七二五円およびうち金四、二一四、七二五円に対する昭和四六年五月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

但し、被告が金三、二〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し一二、〇〇〇、〇〇〇円、およびうち一一、四〇〇、〇〇〇円に対する昭和四六年五月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決ならびに仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四五年三月二二日午前一一時四〇分頃

(二) 場所 神戸市須磨区北町一丁目県道高速神戸西宮線キロポスト二四・九西行先道路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(大五む〇三三〇号)

右運転者 被告

(四) 被害車 普通乗用自動車(大阪五一そ八八三四号)

右運転者 原告

(五) 態様 原告が、被害車を運転して右場所を進行中、加害車が追突した。

2  責任原因

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告は、自動車検査証の点検を怠りその有効期間を満了した車を運転し、前方不注視、追従不適当の過失により、本件事故を発生させた。

3  損害

(一) 治療費等について

原告は、本件事故により、頸部挫傷、頸部捻挫、背部挫傷の傷害を受け、事故直後、金沢病院において応急措置を受けた後、昭和四五年三月二七日から同年四月一二日まで、および同年五月二五日から同年一一月二六日まで住本病院に入院し、同年四月一三日から同年同月二八日まで国立大阪病院に入院し、右の間およびその後両病院に通院して治療を受けた他、投薬、はり、やいと等の治療を受けたが、頭痛、頭重感、背部痛、倦怠感等のバレリユウ症候群の後遺症状が残つており、入通院治療費、入院雑費、薬品代、交通費、付添費等に少なくとも一、三三六、一五七円を要し、同額の損害を受けた。

なお、原、被告間において、治療費のうち、昭和四五年五月八日までの分は、四〇八、二七三円であることを確認し、同年五月末日までに被告は原告に支払う旨の合意が成立した。

(二) 物損

原告は、被害車を所有していたが、本件事故により使用に堪えない程損傷し、新規同型車両の買替えを要し、その費用九三六、九一〇円の損害を受けた。

(三) 逸失利益

原告は、事故当時、中古機械の鑑識眼と商才を有し、四、五人の従業員を使用する中古機械販売を業とする株式会社赤沢商会の代表取締役として稼働し、一ケ月五〇〇、〇〇〇円の給料を得ており、右会社は年間五〇、〇〇〇、〇〇〇円以上の収益をあげていたが、本件事故による受傷のため原告が稼働できなかつたので、右会社の経営も不振となり、原告は、一年六ケ月間の給料が得られず、合計九、〇〇〇、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失した。

(四) 慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円

(五) 弁護士費用 六〇〇、〇〇〇円

4  結論

よつて、原告は、被告に対し、右の損害金のうち一二、〇〇〇、〇〇〇円、およびこれから弁護士費用六〇〇、〇〇〇円を除く一一、四〇〇、〇〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年五月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実中、1の(一)ないし(五)の事実は認める。2の(一)の事実は否認し、(二)の事実中、自動車検査証の有効期間の満了の事実は認めるが、その余の事実は否認する。3の事実中、(一)のうち昭和四五年五月八日までの分が四〇八、二七三円であることを確認したことは認めるが、その余の事実は争う。なお、赤沢商会が経営不振となつたのは、昭和四四年九月に実施された金融引き締めの効果による同四五年春以降の景気後退の影響によるものであり、本件事故とは因果関係がない。

三  被告の主張

1  免責の抗弁ないしは過失相殺の主張

本件事故は、被害車を追越車線上に突然停止させた原告の一方的過失により発生したもので、被告にとつては不可抗力によるものであつて、被告には何らの過失がない。仮に、被告に過失があるとしても、原告には右過失があるから、損害額の算定につき斟酌すべきである。

2  治療費支払の意思表示の取消の仮定的抗弁

仮に、請求原因3の(一)の治療費支払の意思表示が認められるとしても、同意思表示は、原告の強迫によるものであるから、被告は本訴において取消す。

四  被告の主張に対する認否

1の事実は否認する。原告は、先行車との衝突を避けるため停車したものである。2の事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

第一事故の発生について

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。〔証拠略〕を総合すると、

一  本件事故現場は、南北に走る幅員七・八米のアスフアルト舗装道路(以下本線という。)の追越車線上であつて、同所から北に向かつて左側に月見山出口への道路(以下ランプウエーという。)が分岐しており、事故現場附近の見とおしは良く、時速七〇粁の速度制限および駐停車禁止の規制が行われていたこと、右分岐点には、右に第2神明、左に月見山出口と書かれた道路標識が設置されていたこと、

二  原告は、被害車を運転して、本線の追越車線上を時速約七〇粁で南から北進して事故現場にさしかかつたが、前記標識が見えたので、右ランプウエーを出た方が早いかと考えどちらにしようか迷いつつその手前約六〇ないし七〇米位の地点から徐々に制動措置をとり、本線の追越車線上で、右標識の約一米手前に停車したが、その直後に、追越車線上を後続してきた加害車に追突されたこと、

三  被告は、加害車を運転して右本線の追越車線上を時速約七五粁で南から北進して事故現場にさしかかつたが、左前方の前記道路標識を見ながらこれに気をとられつつそのまま進行したところ、被害車が前方進路上に停止しているのを、その手前約一八・八米に接近して初めて発見し、急制動の措置をとつたが及ばず、被害車の後部に追突したこと、

以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

なお、原告は、先行車との衝突を避けるため停車したものであると主張し、〔証拠略〕中には、これに副う部分もあるが、前掲甲第八号証や前記認定の事故現場の状況等に照らし、にわかに措信しえず、他に右先行車の存在を認めるに足りる証拠はない。

第二責任原因について

〔証拠略〕を総合すると、請求原因2の(一)の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

また、前記認定の事故の態様によれば、被告は加害車を運転して進行中、前方左方の道路標識に注意を奪われて、前方を十分注意しないまま進行し、被害車が進路前方に停止しているのを発見するのが遅れた過失により、本件事故を発生させたものと認められる。

したがつて、本件事故の発生については被告に過失があると認められるから、免責の抗弁は理由がなく、被告は、本件事故による人損につき自賠法三条、民法七〇九条により、物損につき民法七〇九条により、これを賠償する責任がある。

第三損害について

一  原告の傷害、治療の経過および治療費等について

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故により後頭部打撲傷、頸椎捻挫の傷害を受け、事故当日金沢病院で手当を受けた後、昭和四五年三月二六日および同年五月二日に京井病院で検査および治療を受け、同年三月二七日から同年四月一三日まで、および同年五月二五日から同年一一月二六日まで住本病院に入院し、その後同四六年五月三一日まで同病院に通院(実日数一二日)して治療を受け、また、同四五年四月一四日から同月二八日まで精密検査と治療のために国立大阪病院脳神経外科に入院し、同年五月二〇日に同病院に通院して治療を受けたこと、また、右の間に他人のすすめや自己の判断で売薬、鍼、炙等による治療も試みたが、住本病院での治療を終えた同四六年五月三一日には、頭痛、眩暈、肩胛部緊張感、眼の疲労の後遺症状が固定したこと、右の間に治療費等を要したが、本件事故と相当因果関係のある損害としては、京井病院の分九、七五〇円、住本病院の分六四五、七六〇円、国立大阪病院の分六二、六三七円、合計七一八、一四七円の治療費、入院雑費として一日三〇〇円の割合による二一九日分六五、七〇〇円の費用を要し、同額の損害を受けたことが認められ、その他のもの(付添費)は傷害の部位程度等に照し本件事故と相当因果関係がないものと認められる。なお請求原因3(一)末尾記載の治療費支払合意の主張は、予備的主張であると認められるので、主位的主張(自賠法三条に基づく治療費賠償義務の存在)が認められる以上、これに対する判断は要しない。

二  休業損害および逸失利益について

〔証拠略〕を総合すると、原告は、事故当時四五才の男子で、株式会社赤沢商会の代表取締役として、他の四名の従業員を使用して中古工作機械の販売業を営み、昭和四四年度には右会社より年間四、五九四、八〇〇円の給与を得ていたが、右会社は資本金八〇〇万円程度で、原告の他には会社経営に従事する実質的な役員は居らず、いわゆる個人会社であつたが、原告が入院している間は、原告の兄の赤沢精一がその事務を代行していたこと、同会社は、事故後その売り上げが前年度の一〇分の一程度に低下したが、これは原告の入院等によるものであると同時に、景気の低下によるものでもあること、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の事実と、前記一認定の事実を総合すると、原告は、一ケ月あたり右年間給与の約一二分の一にあたる四〇〇、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため昭和四五年三月二二日から同年一一月二六日までの約八ケ月間はその収入の五〇パーセントを、その後の三年間は一四パーセントを喪失するものと認められるから、年別のホフマン式により年五分の中間利息を控除して現価額を算出すると、原告の逸失利益は、三、四三四、五六〇円となる。

(計算式四〇〇、〇〇〇円×〇・五×八+四〇〇、〇〇〇円×一二×〇・一四×二・七三=三、四三四、五六〇円)

三  物損について

〔証拠略〕を総合し、前記認定の会社の形態を考え合わせると、原告は、右赤沢商会の名義で被害車を所有していたが、本件事故により被害車を破損され、大阪日産で査定を受けたところ下取価格としては四〇万円との査定を受け、その後約三五万円で他に売却したことが認められるが、事故前における被害車の中古車としての客観的価格を認定するに足る資料がないので、右売却による損失額は、結局これを認定することができない。そして、〔証拠略〕によれば、被害車の損傷は後部バンバー、トランク凹損等であつて、これを修理したならばその費用は五〇、〇〇〇円程度であつたことが窺えるので、結局、物損としては、五〇、〇〇〇円を認定することができるが、その余については証明がない。

四  慰藉料について

前記認定の本件事故の態様、原告の傷害の程度、治療の経過および期間、後遺症状の内容、程度等を考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的損害に対する慰藉料額は、一、〇〇〇、〇〇〇円を相当とすると認められる。

第四過失相殺について

前記認定の事故の態様によれば、原告は、駐停車の禁止の規制がなされている追越車線上に被害車を停止させた過失があると認められるので、損害額の算定につき、その二割を減ずるのを相当とする。よつて、原告が被告に対し請求できる損害額は、四、二一四、七二五円となる。

第五弁護士費用について

本件事案の性質、審理の経過および認容額に照らし、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用額は四〇〇、〇〇〇円を相当とすると認められる。

第六結論

以上のとおり、原告は被告に対し四、六一四、七二五円、およびこれから弁護士費用を除く四、二一四、七二五円に対する本件不法行為の日の後で、本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年五月二日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるから、原告の請求をこの限度で認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行およびその免脱の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 菅英昇 中辻孝夫)

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